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資本政策の感想戦「ニューラルポケット株式会社」

企業が新規株式公開(IPO)を行った場合、その企業が作成した「新規上場申請のための有価証券報告書(以下「Ⅰの部」という)」を見れば、その企業が上場までにどのような資本取引を行ってきたかを伺い知ることができる。

このnoteは「資本政策の感想戦」と銘打ち、第三者の視点から、創業から資本取引を将棋の棋士が行う感想戦のように1手1手振り返り、その背景で動いていた資本政策の意図を考察することで、資本政策に関する学びを得ることを目的として書いている。

取り上げる企業:ニューラルポケット株式会社

このnoteでは、2020年7月10日に上場が承認されたニューラルポケット株式会社(上場日2020年8月20日、証券コード:4056)を題材として創業から上場に至るまでの資本政策を振返り検証する。

ニューラルポケット株式会社は、マッキンゼー・アンド・カンパニーでパートナーを務めていた重松路威氏が2018年1月22日に設立した会社だ。
画像並びに動画の解析技術を軸に、toB向けに、属性・ペルソナ向けにカスタマイズした広告を表示させるサイネージ広告(屋外デジタル広告)提案やアパレル業界の商品企画をサポートするファッションのトレンド解析を行っている。

同社は、設立から上場承認まで2年6ヶ月を切るスピード上場を果たしている。同社のスピード上場を他社と相対的に比較するため、2014年以降に上場した企業のうちスピード上場を果たしている企業を下記に掲載した。

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表上の企業のうち、株式会社Gunosyや株式会社リンクバルは創業者が設立前にサービスを展開したことが知られており、それを鑑みると、ニューラルポケット株式会社が成し遂げた創業から2年7ヶ月での新規上場は近年では異例のスピード上場といえる。

上場準備の必要期間を鑑みると、設立時から目指さない限り、このレベルのスピード上場は成し遂げられない。一連の資本取引について、スピード上場を前提とした資本政策に基づき実行されたと考えた方が良いだろう。

ニューラルポケット株式会社は、創業からの上場までの2年7ヶ月で、3回の第三者割当による資金調達と8回の新株予約権発行含めた19回の資本取引を行っている。
この期間内において、①外部協力者含めたキーマンへのエクイティ付与②サービス展開に必要な資金調達③従業員へのエクイティインセンティブ設計、の3つの性質の資本取引が行われている。
このnoteではこれらの資本取引について、サービスの状況・組織の状況と共に振り返ることで、スピード上場を狙って成功させた企業の資本政策はどのようなものだったか検討を行う。

なおこの記事は、会社が公表したⅠの部を情報源としている。各回の資本取引について推定を交えた考察は行うが、極力客観的事実の枠内から外れないように記述を心がけている。

第1期の資本政策:

□ 会社の状況

設立期であり、上場準備を開始した第1期について会社の状況を確認する。資本取引を考える上で前提条件となる、資本取引が実施された時期の会社の状況を確認し、背景知識を得た上で資本取引を確認すると、何故その取引がなされたのか理解がしやすいだろう。

■ サービスの状況・業績の状況
サービスの状況:
ファッションポケット株式会社(現「ニューラルポケット株式会社」)は、2018年1月22日に設立された、画像・映像解析技術をコアに複数分野におけるサービスを提供する企業だ。

設立時のCEOとして元マッキンゼー・アンド・カンパニーでパートナーを務めていた重松路威氏が、CTOとして元IBMの渡邊直樹氏(2018年4月退任)がそれぞれ就任しており、創業当初は「経営コンサルティングおよび技術者により創業」された旨HP上で公開している(当時のHPより)。

創業当初は、ファッション・コーデの解析技術を主軸として、アパレル業界向けトレンド予測・商品企画サービスを開発していた。起業準備を設立前の2017年11月ごろから(創業時CTOのプロフィールより)行っており、大阪商工会議所が開催した「AIビジネス創出アイデアコンテスト」に対して起業準備期間中に応募を行い、会社設立直後の2018年2月に、アパレル企業向けのトレンド予測発信に関するアイデアで最優秀賞を獲得している。
アイデアコンテストやピッチイベントを調達活動やメディアの露出につなげる企業も存在し(スペースマーケットの事例が参考になるだろう)、ファッションポケット株式会社も本件直後に資金調達を実施している。

会社設立後半年間はあまり積極的なビジネス上の展開を行っておらず、この時期には、基幹技術である独自のアルゴリズムの開発を行っていた。ビジネス上の展開として、画像解析技術を用いたファッション商品企画「AI MD」サービスを2018年8月から提供を開始している。同分野については、創業当初から大手企業と取り組みを行っており、第1期からユナイテッドアローズ(7606)やクロスプラス(3320)といった上場企業に対して、サービスの提供ないし業務提携を行っている。

創業時にはアパレル業界向けにサービスを開始した同社だが、上場時にⅠの部内で紹介されている同社のサービスは①スマートシティ関連サービス②サイネージ広告関連サービス③ファッショントレンド解析関連サービスの3つと紹介されている。この3つのサービスは、2018年下期にはすでに開発を着手していることが伺える(以下図は2018年12月2日時点の同社HPから)。

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業績の状況:
創業第1期の業績を確認する。第1期における売上高は6021万円。売上高のほぼ全て(全売上高の99.7%にあたる6000万円)はクロスプラス株式会社1社に対する売上高となっている。「AI MD」を複数社に提供している公表情報と収益が1社依存の状況を組み合わせると、同社に対しては「AI MD」をベースとした商品企画のコンサルティングなど、踏み込んだサービス提供を行っていることが推測される。

サービスを提供されているクロスプラスについて確認する。同社は、東証2部に上場する名古屋に本社があるアパレルメーカであり、婦人服業界でトップクラスの企画力・生産力があることを自社の強みとして認識している。

同社のビジネスの中心は製造卸売業であるが、近年の業績は減収減益傾向にあった。ファッションポケット株式会社が得意とする領域は、ファッショントレンド解析結果に基づく商品企画と、それに伴うプロパー消化率(商品が値引き・廃棄されず定価で売れた割合)の向上だ。同社関与前後の、クロスプラスの業績を下記にまとめた。

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毎期期末に保有する商品(BS上「商品」に計上される)のうち売れなかった商品などから評価損が計上されている。ファッションポケット株式会社が企画提案を開始する2019年1月期まで、評価損割合(評価前の商品計上額と評価損の比率)は13%-18%で推移している。ファションポケットが商品企画に影響した2020年1月期には同割合が11.72%に低下しており、それに従い売上総利益率も改善傾向を見せており、直近5会計年度で最も高い値(22.17%)となっている。1事業年度のみ業績数値を見たところでサービスの効果を断ずるべきではないが、同社のサービスに一定の効果がある可能性は確認できた。

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